アイルランド人の父とギリシャ人の母のもとに生まれて
八雲は1850年6月27日、ギリシャ西部のイオニア海にあるレフカダ島で、アイルランド人の父とギリシャ人の母のもとに生まれた。
2歳で父の生家があるアイルランドのダブリンに移るが、気候と文化の違いに馴染めなかった母は、4歳のハーンを置いて生まれ故郷に帰ってしまう。その後、敬虔(けいけん)なカトリック教徒だった父方の大叔母の家に身を寄せ、育てられることになった。しかし、そこでの暮らしは彼にとっては苦しかったようだ。
乳母(うば)が語る妖精譚や怪談を聞くことを何よりも楽しみにしたという。八雲が海水浴好きなのは、このときケルト海で泳ぎを覚えたことに起因している。
アイルランドといえば、今なお多くの神話や伝承が残されていることで知られている。
妖精の国という人もいるくらい、アイルランド人にとって妖精は身近な存在であり、生活の中で話題にするのは普通のことだったようだ。そんな環境の中で乳母から語られる妖精譚は、幼くして母を失い、孤独だった彼の心に染み渡っていったのではないだろうか。
その後、大叔母の意向により13歳で全寮制の神学校に入学するが、厳格な宗教教育や神学校の僧侶たちの偽善的な態度に反発。このことがのちに多神教世界やブードゥー教、そして神道に対する共感につながっていったという。