小猫を懐に入れて温めてやっていた
この末次の離れ座敷は、湖に臨んでいましたので、湖上の眺望が殊に美しくて気に入りました。
しかし、私と一緒になりましたので、ここでは不便が多いというので、明治24年の夏の初めに、北堀と申すところの士族屋敷に移りまして一家を持ちました。
私どもと女中と小猫とで引っ越しました。この小猫は、その年の春未だ寒さの身にしむ頃のことでした、ある夕方、私が軒端に立って、湖の夕方の景色を眺めていますと、すぐ下の渚で4、5人のいたずら子どもが、小さい猫の児を水に沈めては上げ、上げては沈めして苛めているのです。
私は子どもたちに、お詫びをして宅につれて帰りまして、その話をいたしますと「おお、可哀相の小猫。むごい子どもですね――」といいながら、そのびっしょり濡れてぶるぶるふるえているのを、そのまま自分の懐に入れて温めてやるのです。そのとき、私は大層感心いたしました。