出雲の冬の寒さ

このときには、到るところ盆踊りをさがして歩きました。先に申しました東郷の池のさわぎもこのときのことでした。漸く盆踊りを見つけて参りますと、反対に西洋人が来たというので踊りそこのけにして、いたずらに砂をかける者がある。あとから謝罪に来るというような珍事もございました。

出雲に帰りましたのは、8月の末で、京都から帰られた西田さんと三人で旅行の話をいたしまして愉快でした。これは一月程の旅行でしたが、このほか一日がけの旅はよくいたしました。

出雲は面白くてヘルン(ハーン)の気に入ったのですが、西印度のような熱いところに慣れたあとですから、出雲の冬の寒さには随分困りました。その頃の松江には、未だストーブと申す物がありませんでした。学校では冬になりましても、大きい火鉢が一つ教場に出るだけでした。

寒がりのヘルン(ハーン)は西田さんに、授業中寒さに困ることを話しますと、それならば外套を着たままで、授業をなさいとのことでした。このとき1着のオーバーコートを持っていましたが、それは船頭の着る物だといっていましたが、それを着ていたのです。好みはあったのですが、服装などはその通り無雑作で構いませんでした。

※本稿は、『小泉八雲のこわい話・思い出の記』(興陽館)の一部を再編集したものです。

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小泉八雲のこわい話・思い出の記』(著:小泉八雲、小泉セツ(節子)/興陽館)

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セツによる怪談執筆の裏話を書いた『思い出の記』も収録。