はじめての西洋人に見物騒ぎ
熊本にいました頃、夏休みに伯耆から隠岐へ参りました。隠岐では二人で大概の浦々をまわりました。西郷、別府、浦郷、菱浦、みな参りました。菱浦だけにも1週間以上いました。
西洋人ははじめてというわけで、浦郷などでは見物がまったく山のようで、宿屋の向かいの家のひさしに上って見物しようといたしますと、そのひさしが落ちて、幸いに怪我人がなかったが、巡査が来るなどという大騒ぎがありました。西郷では、珍客だと申すので病院長が招待してくださいました。
ヘルン(ハーン)はこの見物騒ぎに随分迷惑いたしましたが、私を慰め励ますために、平気を装って「こんな面白いことはない」などと申していましたが、書物にはやはり困ったように書いているそうでございます。
御陵にも詣でました。後醍醐天皇の行在所の黒木山へも参りました。その側の別府と申すところでは菓子がないので、代わりに茶店で「ゑり豆」を出したのを覚えています。
帰りに、伯耆の境港で偶然盆踊りを見ましたが、元気な漁師たちの多いことですから、足を踏んでも、手を拍(う)ってもえらい勢いですから、ヘルン(ハーン)はここで見た盆踊りは、一番勇ましかったといつも申しました。杵築のは陽気な豊年踊り、下市のはご精霊を慰める盆踊り、境のは元気の溢れた勇ましい踊りだと申しました。