(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の放送がスタートしました。モデルとなったのは、日本研究家として知られる小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と、その妻・小泉セツ(節子)です。『ばけばけ』では、明治時代の松江を舞台に、怪談を愛する夫婦の何気ない日常が描かれています。今回は、そんな小泉夫妻の著書『小泉八雲のこわい話・思い出の記』から一部を抜粋し、セツが綴った夫・八雲の思い出をご紹介します。

夜に散歩したときのこと

熊本(※)ではじめて夜、二人で散歩いたしましたときのことを今に思い出します。ある晩、ヘルン(ハーン)は散歩から帰りまして「大層面白いところを見つけました。明晩、散歩いたしましょう」とのことです。

月のない夜でした。宅を二人で出まして、淋しい路を歩きまして、山の麓に参りますと、この上だというのです。草の茫々生えた小笹などの足にさわる小径を上りますと、墓場でした。薄暗い星光りにたくさんの墓がまばらに立っているのが見えます。

淋しいところだと思いました。するとヘルン(ハーン)は「あなた、あの蛙の声聞いてください」というのです。

また、熊本にいる頃でした。夜、散歩から帰ったときのことです。「今夜、私、淋しい田舎道を歩いていました。暗いやみの中から、小さい優しい声で、あなたが呼びました。私、あっといって進みますと、ただやみです。誰もいませんでした」など申したこともございます。

※夫妻は明治24年に松江から熊本に転居し、そこで3年間を過ごした。