私が足繁く父に会いに行く理由

2年前の初夏に父は体調を崩して入院した。秋口に退院が決まったが、父の今後をどうするかを悩んだ。母は40年以上前、私の弟は20年以上前に亡くなっている。決断しなければならない局面でも、相談できる相手がいない。

父と同居したとしても、私が仕事で出かけている間父は一人になってしまう。当時すでに95歳だった父は、急病や転倒によるケガのリスクも高いと思った。いよいよ私は、父に老人ホームへの入居を提案しなければならない日が迫っていた。

「家で面倒を見られない」と父に言う決意をしたものの、それは介護を放棄していることになるのではないか。後ろめたい気持ちに囚われていた。最後まで家族と一緒に暮らせることを、父は望んでいるのではないか…‥。

私は逡巡する思いに苦しんだ。それを払拭するために、私が負担なく行ける距離にある老人ホームを選び、できるだけ父の話し相手をしようと考えた。同居でなくても、頻繁に会いに行って、心は寄り添っていることを伝え続けたかった。

ネットで検索して出てきたのが、今入居している有料老人ホームだ。夜中にパソコンの画面に映った建物や施設内の写真を見て、私は思わず声が出た。

「ここならしょっちゅう行ける!」

申し込みをして見学に行ってみると、敷地内にデイサービスがあるし、ロビーや食堂も広くて明るく、掃除が行き届いていた。

外観の瀟洒な印象から費用面を心配したが、毎月の支払いは父の年金でだいたい賄えそうだ。居室の間取りや窓の位置も父の好みに合っている。きっと気に入ってくれると思えて、私の心が少し軽くなった。

父がどう反応するかドキドキしながら見学に連れて行くと、

「いいな」

と言ってくれたので、私は胸を撫で下ろした。最初の1カ月は、新しい環境に馴染めずイライラしているように見える日もあったが、あっと言う間に慣れてくれた。老人ホームのスタッフの見守りのおかげもあって、いつも穏やかな顔をしている。