モデルとなった逸話では…
――以上が「四谷怪談」と聞いて多くの人が思い出す、鶴屋南北の歌舞伎『東海道四谷怪談』のストーリーだ。しかしモデルとなった元の逸話はだいぶ筋が異なっている。
元ネタ『四ツ谷雑談集(ぞうたんしゅう)』のお岩は若い頃の疱瘡(ほうそう)で片目を失っている。
後妻をとりたい田宮伊右衛門たちの罠にはめられ、家を追い出されるところまでは似ているが、毒薬も殺人もなく離縁はスムーズに成立。
しかしその後、三番町の武家屋敷に奉公していたお岩は、知人づてに伊右衛門の卑怯な嘘を知る。怒り狂ったお岩は鬼のごとき形相で屋敷を飛び出し、四谷方面へと疾走。そして四谷見附から外濠の向こうへと渡り、西へと駆け抜けていったのだが……。
ここで、お岩の消息はぷっつりと途絶えてしまう。なぜか彼女は四谷左門町の田宮家に駆け込んでいないのだ。