お岩らしき老女が目撃され
そんなお岩が再び姿を現すのは15年も後のこと。ただこれも死霊なのか生きているのかが定かではない。
ここから伊右衛門やその妻子、関係者らが数年をかけて次々と病気にかかり死んでいく。
また伊右衛門の死後も、田宮家の養子や脇役たちが呪われていく様子が、長い年月をかけて延々と描写される。
こうして伊右衛門と仲間たちについては、個人どころかその家まで根絶やしにされたことが報告されるが、ここにおいてもなお、お岩の生死は明らかになっていない。それどころか終盤になって、お岩らしき老女が飯田町の坂(現在の九段下駅あたり)で目撃されるのだ。
目の潰れたところもお岩にそっくりの、生きていればこの年恰好になっているだろう痩せた女の物乞いが、坂の途中でなにごとかを喋っていたのだという。
はたしてお岩は憤死して果て、数十年にわたり怨霊として伊右衛門たちに祟っていたのか。いやそれは伊右衛門たちの勘違いであり、お岩は江戸の片隅で誰よりも歳老いて生きのびていたのだろうか。
もし後者だったとすれば、ずいぶん拍子抜けな話だと思うだろうか。いやむしろ、そちらのほうがより不気味な怪談だと思う人もいるのではないだろうか。
※本稿は、『教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで』(著:吉田悠軌/ワン・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
『教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで』(著:吉田悠軌/ワン・パブリッシング)
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