「自分の中にはない「他人の言葉」を使うと、会見を見る人にもそのことが伝わってしまうんです。」(撮影:本社写真部)

もっと問題なのは、今すぐにでも資金が必要な人たちの不安感に応えていなかったこと。政府内でまだ詰め切っていないからなのでしょうが、経済対策の具体案が出ませんでした。ただでさえ、「緊急経済対策が遅い」という声が多いですし、お金が出るのは5月末だと聞いて、がっかりした事業主は多いでしょう。

「緊急会見」というからには、今後の方向性や方針、対策を具体的に伝えるべきでした。今すぐできるかできないかは別として、「これからこういうことをやっていきます」、「こうなった場合にはこうします」と、政府の行動指針を具体的に示す。それと同時に、「こうなった場合には、こういう対処をしてください」とか、「損害・損失を受ける皆さんにはこういうことをやります」などと対策を打ち出す。これらがセットで出てこないといけません。会見では「戦後最大の危機」という表現が使われていましたが、その危機的状況だからこそ、具体的な方策を示すべきだったのではないでしょうか。

「今、私たちが最も恐れるべきは、恐怖それ自体です」という発言もありましたが、これはアメリカ大統領ルーズベルトの演説からの引用でしょう。前後の文脈から浮いていて、借りてきた言葉だという不自然さがありました。こうした、自分の中にはない「他人の言葉」を使うと、会見を見る人にもそのことが伝わってしまうんです。

もっとも気になったのは、どの会見もそうですが、安倍総理の発言がほぼすべて「原稿読み」であること。左右に置かれたプロンプター(透明板に原稿を映し出す装置)をひたすら読んでいるから、なんの感情も伝わってこない。首振り人形のように左右を交互に見ているため、ほとんど正面を見ることがありません。これでは「語りかける」ことになりませんから、発言内容もストレートに届いてこない。