いつも正面、画面の向こうの国民を見て
政治家は、物を作ったり、売ったりする仕事ではありません。言葉を使って人々の共感を得たうえで、決定事項を進める。だからこそ、国民に向かって、自分の内から出てくる心情なり思いなりを語りかける必要があるんです。
今の安倍総理や小池都知事の会見を見ていると、国民の心に訴えかけるような言葉はほとんど出てこない。危機的な状況では下手な言葉を挟んではいけない、というのもよくわかる。でも、ちょっと気の利いた言葉や、心から発する言葉があると、受け取る側も敏感に反応すると思います。
たとえば、非常に厳しい状況に陥っているイタリアのコンテ首相が、国民に向けて「明日抱き合うために、今日は離れていよう。明日走るために、今日は立ち止まろう」と言っていた。こういう言葉こそが、今は響くんじゃないでしょうか。
ニューヨーク州のクオモ知事も、毎日のようにテレビの前で語りかけている。ドイツのメルケル首相、イギリスのジョンソン首相は会見をやらず、動画で直接国民に語りかけることを繰り返した。彼らの目は、いつも正面、画面の向こうの国民を見ています。原稿にしばしば目をやり、「決定事項の発表」が多い会見よりも、カメラと相対する動画収録でやるほうが、メッセージの印象も強まるでしょう。
政治家にとって、今ほど言葉が重要な時期はありません。一言一句が、初めて体験する危機にある国民に、大変影響を与えるわけですから。危機にどう対処すべきか、国民はどう考えたらいいのか、具体的に示し、そして同時に、ほのかでも希望の灯が見えていることを提示し、国民を勇気づける――。それこそが今政治家がすべき、大事な仕事ではないでしょうか。
政治家が言葉を発するとき、一番大事なのは「想像力」です。自分の態度や使った言葉が、国民にどう伝わるのか、常に考え、想像しながら言葉を発していく必要があると思います。