昭恵さんは毎日ギチギチに予定を入れる
中島 その謎を解くひとつの鍵は、昭恵さんが「“遅い”自分探しの人」だということではないでしょうか。彼女が今のようになったのは第一次安倍内閣が終わった後です。ご本人もインタビュー等で語っていますが、第一次内閣では典型的なファーストレディ、三歩下がって夫の後を歩く女性像に押し込められていた。でも夫の健康問題で政権が崩壊すると、世間から非難を浴びる「どん底」の時期がやってきました。
雨宮 そこから彼女の「充電」が始まったと、先ほどのルポにも描かれていますね。曽野綾子さんとカンボジアの地雷撤去の現場を見に行ったり、ミャンマーに寺子屋を作ったり。大学院に通い、フルマラソンにも挑戦。「人の集まる場所を作りたい」と居酒屋の計画を立ち上げた。神社巡りも始めて、スピリチュアルカウンセラーや神道関係者、ニューエイジ系(精神世界)の人々と交流を深め、どんどん神がかった方向へ突き進んで行く。
中島 昭恵さんは毎日ギチギチに予定を入れるんです。それは僕が思うに、必要とされている感覚が欲しいからではないでしょうか。
雨宮 昭恵さんは、お嬢様育ちで首相夫人なのに、「誰か本当の私を見て」「本当の私はここにいるの」と、自分の中の少女が叫んでいるようです。
中島 これは昭恵さん個人に限ったことではないと思います。91年のバブル崩壊後の閉塞感の中、人々が心の拠り所を失ったわが国の、大きな流れの中の問題でもある。また自分探しは、かつて若者の問題でしたが、昭恵さんは50歳手前から始めています。今や一般女性も、夫が定年になったり、子育てが終わった後に「本当の自分探し」を始める人は多いと思う。自分の中にも昭恵さん的な焦燥があるというのは、わりとみなさん共通する感覚ではないでしょうか。
雨宮 わかります。少し下の年代でも、アッキーが好きな人はたくさんいる。森友問題以前は、広く女性から好感をもたれていました。
中島 彼女が最初に壁と直面したのは93年に夫が政治家として選挙を戦ったとき。地盤の山口で「お子さんは?」と聞かれ続けた。不妊治療を受けるが、結局子どもに恵まれませんでした。その後突然、夫が首相に就任。しかし石井さんのルポにもあるように、彼女はファーストレディとして「自分には語るべき言葉がない」という思いがあった。
雨宮 そこで自分探しが始まったのでしょうか。その点に共感する女性はたくさんいると思います。