「僕が専門で研究するインドでも同じような現象が見られます。女性の身体や母性を神聖視しているようで、その実、女性を家庭に押し込めて社会参加を阻む。その一方で近代科学を否定するのです」(中島さん)

“昭恵さん的なもの”の芽

雨宮 いつからそんなことになってしまったのでしょうか。

中島 現在のスピリチュアルと政治の結びつきは実は古くて、50年ぐらい前に左派が変化したことから始まっています。60年代のアメリカでは、ヒッピー文化を底流として、大麻やエコロジー、オーガニックという自然志向とともに左派的な主張とスピリチュアリズムが繋がる傾向にありました。

雨宮 そこですでに“昭恵さん的なもの”の芽が出てきているのですね。では、最初は左とスピリチュアルが近づいたわけですか。

中島 ええ。もともと左翼思想というのは、理性と合理性をもって社会を進歩させようという考え方です。しかしそれだけではベトナム戦争を止めることができなかった。そうしたことへの反省と批判から、左派の特徴であった理性中心主義が壊れ、左と右の境目が曖昧になっていく。

雨宮 左の人たちも理性より感性が大事だと言い始めた。

中島 はい。アメリカでおきたヒッピー文化に影響を受けた日本の左翼文化がその後、三里塚や水俣などの闘争を経て農村回帰運動につながっていきます。そうした土着的な動きが、伝統礼讃や自国の純粋性にこだわる愛国的なものの土台となっていったのです。たとえば近代文明じゃなくて、里山はすばらしい、とか。

雨宮 それに、ここ数年、外国人を連れて来て日本の技術や伝統を褒めさせるようなテレビ番組や、いわゆる「愛国本」が溢れています。そういう「ニッポンすごい」ブームの背景には、歴史的な流れがあったんですね。

中島 ええ。神社巡りや神道スピリチュアル系セミナーには昭恵さん世代の女性も結構たくさん来るようです。「もう一度日本のすばらしさを取り戻そう」という声に惹かれて。

雨宮 そういう話は、一番わかりやすくて気持ちいいですものね。

中島 日本人であることは、能力に関係なく手にできる属性です。日本女性というだけで、そのままの自分で何か素晴らしいものをもっているのだと、自己肯定されますから。