「ニッポンすごい」はどこから来るのか

中島 ただ、大学院進学やマラソンまではよかったのですが、昭恵さんはスピリチュアリズムにも急速に傾倒していく。僕は大麻に関する発言で、ぐっと踏み込んだなと思いました。

雨宮 昭恵さんはこの1~2年、大麻の国内栽培促進を訴え、2016年11月の『週刊現代』では「日本を取り戻すことは大麻を取り戻すこと」とまで発言しています。彼女が言うには、大麻は波動が高い草で、古来から日本の神事には欠かせない。ただ、今の麻はほとんど中国産だけれど、日本の大地で生まれた国産の麻こそがピュアなのだという主張です。でも一般に国産はいいことだとみんな思いますよね?

中島 ええ。しかし自分たちの大地から生まれたものだけが純粋であるというこの発想には、危険な部分もあるのですよ。象徴的な例では、かつてナチス・ドイツも有機農業を称揚し、独自のエコロジー思想を打ち出しています。ヒトラーは「化学肥料がドイツの土壌を破壊する」と訴え、純粋な民族性と国土の繋がりを強調しました。

雨宮 え、そうなんですか!

中島 純粋性と国家が結びつくことの危うさです。そういえば僕は、昭恵さんが三宅洋平さんと会ったことに大変注目し、ある種の危惧を覚えていました。

雨宮 16年、高江の基地反対のテントに三宅さんが昭恵さんを連れて行って大騒ぎになりましたね。

中島 はい。その少し前に二人が初めて対面した際には、昭恵さんが突然三宅さんに、夫と繋がった携帯電話を渡した。そして、直前の参院選に出馬した三宅さんとは選挙でいろいろ対立したけれど、「お互いに同じ国を思う国士です」と会話する。それを知ったとき、ああ、ついにこういう時代が来たのかと思いました。

雨宮 こういう時代とは?

中島 僕は戦前の超国家主義を研究しています。超国家主義とは、第二次世界大戦前の日本やナチス・ドイツが典型ですが、その頃と今の状況が似てきている。大正デモクラシーの中で、農業および農村社会を国の基盤と考える農本主義の人たちが、超越的な力で国家を救済する思想を持つ日蓮主義などを介して、どんどん右傾化していきました。つまり左派的な自然主義(ナチュラリズム)と宗教的なもの(スピリチュアリズム)が出会って、超国家主義(ウルトラナショナリズム)になっていった。

雨宮 怖いですね。

中島 そんな戦前の超国家主義に似た動きが加速し、しかもみんなが「右」だと思っていなかった方向から来ていると感じます。