田部井淳子(たべい・じゅんこ)/福島県生まれ。22歳で社会人山岳会に入り登山活動開始。1975年、女性で世界初のエベレスト登頂に成功。92年女性で世界初の七大陸最高峰登頂者に。2016年死去。享年77
田部井 最初に目標とした参加者1000人という数字は一つの目安になりますが、大切なのは東北の人々が自走できるようになることです。高校生たちの中には手芸部や茶道部の子もいますし、応募してくれた理由もさまざま。とくに最初の頃は、震災で家族を亡くした遺児も多くいました。
僕の考える登山のいいところは、「初めまして」の子たちが集まって、経験があるかないかにかかわらず一緒に取り組めるということ。そして、自分と向き合う時間が持てることなんです。富士山に登った後は、皆いい顔つきになります。
吉永 私は木々の間を歩いていて、あっと目線を上げて頂上が見えた瞬間が、山登りの好きなところです。今回、いくつかの山に登って撮影したのですが、一番苦労したのは富士山のシーンでした。午後になるとガスが出て下界が見えなくなるので、早朝から撮らなくてはダメだと。
朝3時半くらいに目覚まし時計を止めに行ったらつまずき、ドーンと椅子にぶつかって。胸を打って痛かったけれど、撮影だからそんなことも言ってられない。その後も何日か撮影を続けましたが、後になって、肋骨が折れていることがわかりました。
田部井 後から知ってびっくりでした。まわりに気を使わせないよう、黙ってらしたんですね。
吉永 でも夫役の佐藤浩市さんと二人のシーンがとても素敵に撮れたので、よかったと思います。山の景色が美しくて。
田部井 綺麗に晴れましたよね。撮影現場を拝見しながら、少し登山に似ているなと思いました。どちらもチームの力が結集しないと、成し遂げられない。
吉永 じつは、撮影のスケジュール表に、「一歩一歩登っていけば必ず目的地に着く」という淳子さんの言葉が書いてあったんですよ。映画もまさにそうで、若い方も私みたいなシニアも助け合って一歩一歩進んでいく。だから、映画作りはやめられません。