人が職業を選べるようになったのは19世紀に入ってから
たとえば、あなたが原始時代に生まれていたら部族の一員として狩りに精を出すしか生きる道はありませんし、江戸時代に生まれれば世襲制のしくみに従って親の仕事を継いでいたでしょうし、中世ヨーロッパに生を受けたらかなりの確率で農奴として一生を終えたはずです。
人が職業を選べるようになったのはヨーロッパで能力主義の考え方が進んだ19世紀に入ってからのことですから、人類は歴史の9割以上を「仕事選び」に悩まずに暮らしてきたことになります。
そのせいで人類の脳には、「複数に分岐した未来の可能性」をうまく処理するための能力が進化しませんでした。
大学に残って勉強を続けるべきだろうか? 子供の頃に憧れた弁護士になるために精進するか? 地元のコミュニティで堅実な職を探した方がいいのだろうか? それとも、好きなことを仕事にすべく起業の資金を貯めるべきか?
このような現代的な悩みに私たちの脳は適応していないため、大量の選択肢を前にした人の多くは不安や混乱の感情に襲われます。
特に最近は終身雇用が崩壊したうえに、「人生100年時代」や「ロールモデルがない時代」などの言葉がささやかれ、これからは年齢に応じて複数の仕事を経験するのが当たり前になるとまで言われます。せっかく適職を見つけたと思ってもそのまま働き続けられるとは限らず、人生のステージに合わせたキャリアを一生考えつづけねばならないといった風潮が強くなれば、いよいよ迷いは深まるばかりでしょう。
人類にとっていまの状況は、見知らぬ土地にひとりで放り出された幼子さながらです。
