瞬発的に湧いた怒りをおさめたのは…
まず本人に電話して泣いて謝らせる。あんたのせいで斉藤家は離婚です、よかったネ! 慰謝料はいくら請求してやろう? もちろん彼女の両親にも伝える。会社に連絡してこの女はこういうやつですから解雇した方がいいですよとチクる。転職先へもその女は前職でこういうことしたやつですよとチクる。SNSにも写真と名前を出して夫をとった女だって定期的にお知らせする!
名誉毀損? 知るかそんなもん! 私を怒らせるとどうなるか全員に思い知らせてやる! 私を、なめるな!!
怒りに震え全身からフーフーと蒸気を放ちながら走っていると、夫が追いかけてきた。
「本当にごめん。そんなに怒るならやめるよ。〇〇(長男)も起きちゃったし、一旦、帰ろう」
はあ? “そんなに怒るならやめるよ?” ……何言ってるの? こいつ!
だが長男をおいてきたことを思い出した。そうだ。私には長男がいる。
心はぐちゃぐちゃのまま、一旦、帰ることにした。
ドアを開けるとすぐに長男が「ママぁー」と泣きながら、ぎゅーっと抱きついてきた。
「ごめんね。起こしちゃったね。ママがいなくて寂しかったね」
いろんな感情が溢れて涙が止まらなかった。
ーこの子がいるのに、バカなことはできない。
途端に視界の隅で平謝りしている夫がどうでもよくなった。しょうもない。全然いいよ、くれてやる。
この人を好きで正しく嫉妬しているのかどうか急にわからなくなった。この人とあの女のために自分や子どもの人生を台無しにするなんてバカバカしい。浮気されてるかもとか、なめられてるとか、もうどうでもいい。私はただ子どもと幸せに暮らしたい。
瞬発的に湧いた怒りは、こうしておさまった。
