タワマン内で「子ども食堂」を始めた

ある女性はタワマンに隣接するスーパーマーケットで、小さな子どもたちがばらばらにお弁当類を購入している様子を見たという。

この点が気になった女性が同じタワマンの住民たちの何人かにヒアリングすると、両親共働きで家をほとんど不在にしていて、たった一人、家でテレビを見ながら夕食をとっている子どもたちが予想以上に大勢いることを知ったという。そして、彼ら彼女らの中には、普段家族間の付き合いが皆無で、友人たちとの付き合いも希薄な子どもたちが何人も含まれていることを女性は突き止めた。

『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』(著:矢野耕平/祥伝社)

これはよくないと考えた女性は早速行動した。タワマン内にある共有スペースを使用して「子ども食堂」を始めたのだ。

従来の「子ども食堂」は、貧困家庭に育つ子どもたちの支援的な場として機能しているが、この場合はもちろんそうではない。あくまでも周囲とのコミュニケーションがほとんどない孤立した子どもたちを一堂に集めて「食卓」を囲めば、タワマンで構築された人的つながりの中にその子どもたちを新たに迎え入れることができる。つまり、この子ども食堂をきっかけにして、彼ら彼女らを仲間に引き込むことを主たる目的にしたのである。