子どもに複数の進学塾を掛け持ちさせる
二つ目の事例を紹介しよう。
タワマン密集エリアの小学校の校門外では、学校帰りを待ち受ける民間学童施設をはじめとした、さまざまな教育機関がマイクロバスやバンを待機させている。それらに乗り込む子どもたちはまさに「分刻み」のスケジュールで日ごと数多くの習い事が入っている。
そういう習い事の一つとして進学塾を選定する親がとみに増えてきたように感じるのだ。そして、かつては決して耳にしなかったこんな「要望」が、問い合わせてきた親から発せられることが多くなってきた。
「わが子には複数の進学塾を掛け持ちさせようと思っています」
わたしは即座に否定する。子どもたちが塾の授業がない日は、彼ら彼女らが宿題に取り組むという前提で、こちらもカリキュラムを構築しているのだ。別の塾を掛け持ちしたら、日々の学習が途端に回らなくなるのは当然だし、それによって子どもが勉強そのものを苦痛に感じてしまうようになるのは間違いない。
ただ、その手の親にこういう理屈を丁寧に説明しても、「じゃあ、ほかの塾を当たります」とすぐに電話を切られてしまうのが関の山だ。この点、先ほどの「自習室」を連呼する親とよく似た動機が感じられる。
とにかくわが子に自宅外で日々過ごしてほしいのである。両親共働きで、平日はわが子と顔を合わす時間などほとんど取れないということであれば、こういう考えに至るのはまだ理解はできる。
でも、わたしの経験した限りではあるが、こうした要望を口にする保護者の中には専業主婦の母親も含まれている。これには驚いた。子どもと過ごす時間それ自体が苦痛に感じられるのだろうか、あるいは、子育てから解放される時間を設けて、自分の趣味に興じたいなどと考えているのだろうか……。
