詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫3匹(メイ、テイラー、エリック)と暮らす日常を綴ります。今回は「ソファ、買いました」です(画:一ノ関圭)
仕事中のパソコン画面に、頼んでないのに浮かび上がってくる記事がある。
それは長い間、コンビニスイーツばかりだった。読んだら食べたくなって、近所のセブン、遠くのファミマやローソンまで買いに走った。見るから出る、これが基本の原理である。やがて、どこのスイーツもやわらかくてとろとろでふわふわなので、物足りなくなった。すると記事も熱心に読まなくなり、浮かび上がる記事も少なくなり、記事が目に入らないと食べたくてたまらなくなることも少なくなっていったのだった。
前回、椅子の問題について書きながら、いろいろ検索するうちに、仕事中の画面に出てくるのは椅子の広告ばかりになり、あたしはつい本気で物色しはじめた。人間工学やら素材やらを丹念に比較検討し、これは欲しいと当たりをつけたが、原稿が書けたら買いたい欲もしゅうっと消えた。消えたなと思ったのもつかのま、あたしはソファを検索しはじめた(次のしめきりにかかった)。
うちのソファは犬用だ。以前、チトーに破壊された犬ベッドを買い直すかわりに安いソファを買った。届いたのを見てぎょっとしたほど安っぽい色と形、座り心地も悪いやつ。ところが、チトーの噛み癖が収まってきたようで、三年経つのにまだ原形を保っている。そして実は、犬用のはずが、寄る年波なのかな、あたしが座って、はー(ため息)ということもこの頃よくある。しかしそのとき、座りにくさにイライラする。
座布団を置いたりカバーかけたりして工夫するけど、カバーも安物だから何にもならない。その上、カバーもたちまち毛だらけの毛まみれになり、そして臭くなる。
