クレイマーは泰然と動かない。チトーとエリックは人の出入りに怯えて出てこない。そこで、長兄格のメイが飛び乗り、ニオイを嗅ぎ、テレパシーか何かで、安全だよと弟たちに伝えて降りた。すると今度はやおらテイラーが飛び乗り、ニオイを嗅ぎ、それからなんと、テイラー、座面でがっがっがっと爪をとぎ始めたのだったったっ。あたしはサザエさんみたいにテイラーを追っ払い、大きな布を出してきて掛けた。それにつけても中古でよかった。ほんとうによかった。
念願のソファだ、最初の数日間、あたしは用がないのにたびたび座り、いや、ソファとは用がないときに座るものだが、座ったら必ず横になった。そして百八十センチといったら背の高い男くらいだなあ、などと考えてるうちに寝入っちゃうのだった。昼寝は二十分だけにするベシと人に言われるが、どうやってコントロールするのか。三十分、一時間と眠ってしまって、ぼうっとした頭が戻らなくてほんとうに困った。
でも、寝入る直前のふわふわな感じはたまらない。硬すぎず軟らかすぎないシートの上に、両足を伸ばし、力を抜いて横たわり、すうっと眠りに落ちるとき特有のふわふわ感。どんなコンビニスイーツも、ここまでふわふわにはなるまいと思ったものだ。
よい買い物をしたとあたしは満足だった。そして満足してるものがもうひとりいた。テイラーが、ソファのまん中に長々と伸びている。もう爪とぎはしないで、ただ腹を出して気持ちよさそうに熟睡しているから、あたしは遠慮して座れない。
ある日眠気に負けて、むりやりテイラーの隣に寝てみた。猫とならんで長々。窮屈だけどなんとか、でもちょっと動くと、熟睡するテイラーが無意識に(と思いたい)出してくる爪に、ぐさりとやられた。
犬たちは頑固に安ソファに座る。そして二つソファを並べたら、安ソファはかなり低いのに気がついた。クレイマーがさらに老いてもこれなら座れる。捨てずに取っておこうとあたしは考えた。アメリカから帰ってはや八年。家が物だらけ。買うからだ。片づけられない以前に捨てられないという問題もある。でも物だらけ。なんとか捨てないと。
『対談集 ららら星のかなた』(著:谷川 俊太郎、 伊藤 比呂美)
「聞きたかったこと すべて聞いて
耳をすませ 目をみはりました」
ひとりで暮らす日々のなかで見つけた、食の楽しみやからだの大切さ。
家族や友人、親しかった人々について思うこと。
詩とことばと音楽の深いつながりとは。
歳をとることの一側面として、子どもに返ること。
ゆっくりと進化する“老い”と“死”についての思い。






