
(画:一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫3匹(メイ、テイラー、エリック)と暮らす日常を綴ります。今回は「あたしには腰痛がある」です(画:一ノ関圭)
あたしには腰痛がある。ズンバをいっしょにやってる五十代六十代の人たちにも、みんなある。たぶん読者のみなさんにもある。クレイマーにもある。
シェパードは遺伝的に関節炎が多いのだ。クレイマーももう十歳、人間にしたら七十五歳。いつのまにか抜かれてしまった。うちに来たときは小学校五年生くらい、それから若い雄犬になって、おじさん犬になって、おじいさん犬になった。今は関節炎がひどくなり、歩きたくない。何もしたくない。うつうつとしているのである。
獣医の先生に相談したら、関節炎に効く高価な薬(一万円強)があると言われ、ためしてみたらよく効いた。打った次の日にはもう、ぱああっと表情がはれやかになった。それで月一回、その注射を打つ。一ヵ月くらいで切れるから、また打つ。
で、あたしはこないだ一週間ほど東京に行き、慣れない机と慣れない椅子にやられて腰痛がひどい。椅子から立ち上がろうとしてピキッ。前屈の姿勢を取っただけでピキッ。ときには振り向いただけ、動いただけでもピキッ。ピキッは腰のつがいにひびが入るみたいな痛みの音だ。聞こえるわけではない。
この頃はズンバで治していた(後述)。しかし一週間東京にいるということは、その間ズンバをしないということで、それでどんどんひどくなった。