猫たちには、この緑の椅子が特等席で、入れ替わり立ち替わりそこに寝ている。
どいてと言っても、どかないのが猫だ。
以前はニコがそこにいた。ニコは背もたれとおしりの隙間でちんまりと寝ていたが、晩年のニコより猫たちの方が巨大なので、あたしがすわると、猫たちは我慢できなくなって、するりと出ていく。
ところが、それがたび重なって、この頃はあたしが「どいて」と言うだけで、どいてくれるようになった。これには驚いた。猫も、自分の意思をひっこめて飼い主に従えるということ、初めて知った。
どいたテイラーは別の机に移って、本を枕にして眠る。ときどき伸びをして本をバラバラと落とす。エリックはオフィスチェアをひとり占めする。メイは、いったんどいてもまた戻ってきて、あたしに話しかけ、顔をすり寄せ、振り向かないあたしに、後ろから爪を数回たてると、満足してどこかに行く。
『対談集 ららら星のかなた』(著:谷川 俊太郎、 伊藤 比呂美)
「聞きたかったこと すべて聞いて
耳をすませ 目をみはりました」
ひとりで暮らす日々のなかで見つけた、食の楽しみやからだの大切さ。
家族や友人、親しかった人々について思うこと。
詩とことばと音楽の深いつながりとは。
歳をとることの一側面として、子どもに返ること。
ゆっくりと進化する“老い”と“死”についての思い。






