「酒場が似合う人」は山の上でも
類さんは自然、歴史、土地、人の暮らし、その背景にある物語に驚くほど精通されていて、急な山道を登りながら話してくれる、その知識と体力に感心するばかりでした。
頂上はなかなか遠く、類さんが優しく声をかけてくれても、「ぜぇ…ぜぇ……ほんと…ですねぇ…」と返事はほぼ酸欠状態。
体力には自信があると思っていた私も、途中何度も立ち止まりました。
山は想像以上に静かで、そこには静寂と木漏れ日と、余裕の笑みを浮かべた類さんがいました。
不思議です。
酒場があれほど似合う人が、山の上でもまたしっくりきてしまう。
人の居場所はひとつでなくてもいいんだな…。
ふと、そんなことを思いました。
自分の輝ける場所は探すものではなく、歩いた先に自然と増えていくものなのかもしれない。類さんと山を歩きながら思いました。
そして、ようやくたどり着いた頂上。
あぁ、気持ちがいい。
山頂の景色と達成感。
自分の足でここまで来たんだという、ちょっとした誇り。
そして山に残る伝説の謎を知り、忘れていた昔話を思い出させてもらったような温かい気持ちになりました。
ふと横を見ると、類さんがあの柔らかな笑顔で山々を眺めていました。
山を愛する人の気持ちが少しだけわかったような気がしました。
