「(渡辺美智雄)先生からは「おまえたちは何のために政治家になるんだ。金がほしいのか、先生と呼ばれたいか、良い勲章をもらいたいのか、女性にモテたいのか。そんな奴はなるな。よく聞け、政治家の仕事はたったひとつ、勇気と真心を持って真実を語る。それができない奴は絶対になるな」と、政治家とは何かというのを教わった」(石破さん)

政治家であることは手段であって目的ではない

中村 かつてのインタビューで石破さんは、「権力は弱い人のために使う。それが政治だ」とおっしゃっていました。

石破 それは私が師事した田中角栄先生の言葉なんです。私の父親、石破二朗は鳥取の農家に生まれ、東京帝国大学を出て建設事務次官、鳥取県知事、参議院議員、自治大臣を務めました。私は姉2人がいる末っ子で、慶應義塾大学を卒業後に三井銀行へ就職しました。

父は角栄先生と本当に仲がよくて、81年に父が亡くなったのを機に、角栄先生から「おまえが出ろ」と勧められて政界入りした経緯があります。私が大きな影響を受けた政治家は3人おられますが、角栄先生には、そばにいて多くを学ばせていただきました。

中村 残りのお2人は誰ですか?

石破 2人めは渡辺美智雄先生。先生からは「おまえたちは何のために政治家になるんだ。金がほしいのか、先生と呼ばれたいか、良い勲章をもらいたいのか、女性にモテたいのか。そんな奴はなるな。よく聞け、政治家の仕事はたったひとつ、勇気と真心を持って真実を語る。それができない奴は絶対になるな」と、政治家とは何かというのを教わった。

3人めは竹下登先生。私は政治改革を志して自民党を出て、失意のどん底で自民党に復党したのですが、竹下派でもなかった私が再び自民党から選挙に出るとき、先生は鳥取県の関係者を20人以上集めてくださって、「石破を頼む」と一番下座から頭を下げてお願いしてくださった。

中村 下座から頭を下げて……。

石破 普通、できることではないと思います。批判も多々ありましたが、お三方とも、地方出身者で、庶民であり、庶民の味方でした。そして、政治家であることは手段であって目的ではない、ということをそれぞれ教えてくださいました。

中村 石破さんは当選11回、議員34年。農林水産大臣や防衛大臣など閣僚を6年間、幹事長と政調会長の党三役を4年間おやりになって、2世議員のエリートではないですか。

石破 「ポストも歴任し選挙も強い、両方持っている。それがない人が圧倒的多数であることを忘れるな、おまえが政権批判すればするほど嫌みに聞こえる」と耳の痛い指摘をしてくださる方もあります。それはありがたいことです。厳しいことを言ってくれたのは両親もそう。私が子どもの頃は知事公邸が住居で、家政婦さん、庭師さん、そして多くの役所の方々が出入りしておられた中で、忘れられない経験をしています。

中村 どんなことでしょう。

石破 未就学の年齢だったと思いますが、あるとき私が家政婦さんに生意気な口を利いたことがありました。すると父が「おまえには人に仕える者の気持ちがわからないのか!」と、それはもう烈火のごとく怒りまして。母親も「おまえが偉いわけじゃない。出ていけ!」と真冬の夜に一晩、放り出された。まあ、本当に怖かった。その記憶は忘れようもないですし、子ども心に人との接し方を叩きこまれたような気がします。

中村 そんなことがあったんですね。そして今、石破さんは世論調査の結果からも「ポスト安倍」として有力視されています。

石破 ありがたいことです。おそらく国民の多くは自民党を支持してくださっているが、安倍政権はちょっと違うんじゃないかと思う方々が出てきて、自民党で政権とは違う方向性を発信しているのは石破だと。そういうことかなと思います。

中村 安倍総理は石破さんを嫌っていると聞きますが。

石破 そうだとすれば不徳の致すところです。平和安全法制をめぐって私と総理の見解が違ったところからなのかもしれません。自分の考えと内閣の考え方が違うのであれば、大臣をお受けしても内閣不一致になって結局ご迷惑をかけます。一昨年の総裁選では現職総理と一騎打ちという形にもなりましたし。

中村 来年の総裁選に出ようにも、現時点では、石破さんは推薦人が2人足りないですよね。

石破 来年の話はどうかわかりませんが、長年、総裁選を見てきて、最後の2、3日間でガラッと変わることもありました。角栄先生は「総理大臣は努力してもなれない。それは天命だ」ともおっしゃっていた。私は、だいたい顔が怖いんだよとか、おまえは言うことが難しいんだよ、とかいろいろ言われますけど。

石破は面倒見が悪いという悪口も聞きますが、金とポストを配れば面倒見がいいというのもナンセンスですよね。そもそもポストは国家国民のためにあるもので、議員のためにあるものじゃない。金を配らないって言われても、私、お金ないんだもの(笑)。ただ、ご存じないかもしれないけれど、私ができる面倒見は選挙の応援。選挙応援は、できるだけ多くの議員のところに行こうと思っています。