社会不安が高まると、人は、親しい人との境界線があやふやになりやすいと安東さんは言う。

「相手を頼っているからこそ、自分と同じように感じて当たり前だと思ってしまう。だから、相手の反応が異なると傷つく。でも夫婦だって他人ですから、違って当たり前で、話さないとわかりません。まずは腹立たしさをそのままぶつけず、怒りの奥にある不安や心配に自分で気づいたうえで、きちんと相手にわかる言葉を投げることが大切です」

たとえ、いっとき喧嘩になっても、何も言わないよりはいいと言う。一番避けたいのは、「どうせ相手には伝わらないと諦めること」。

「コミュニケーションを諦めることは、相手の嫌な部分を許し、時に助長することにもがります。今は良くても、10年、20年経った時、『もう何を話しても仕方がない』と、本当に危機的な状況になってしまうんです。

最近ワイドショーなどで、スーパーでマスクがないと店員をなじったり、病院で早く診察しろと怒鳴ったりする人が取り上げられていますね。これは、『自分はもっと大切に扱われるべきだ』という自尊心が家族や夫婦の中で満たされていない結果なのかなと感じます」

つまり、それが今のような不自由な状況下になると、誰かへの攻撃として出てきてしまうのだ。

「家庭内のパワハラ問題も同じ部分があります。もちろん、もし度が過ぎた行為や価値観の違いに本気で嫌気がさしたり、身の危険を感じたりしたら、その時は関係性を見直し、離れるのも一つの道だと思います。

でも、これからの人生も、せっかく夫婦になった人と助け合って乗り越えたいのなら、『私はあなたのそういう態度は嫌だ』と伝える勇気を持たなくてはいけない。こうした不安定な世の中だからこそ見えてくる問題は、逆に言えば、親しい人との関係性を仕切り直す、大きなチャンスとも言えるでしょう」

この先、どれくらい今の緊急事態が続くのかわからない。自分たちが安全に過ごせるかどうか、誰もが不安の中にいる。そんな時、本当に大切な人とどう支え合えるか……それは私たちにとって、ウイルスの脅威とは別の試練なのかもしれない。