あのときの気まずさを思い出したのだ。弟一家と言い争うようなことはなにもなかったが、そもそも仕事場で身内と会うという状況自体が異例である。自分の働きぶりを家族に見られている。仕事場で仕事仲間と交わす会話を聞かれている。そう思うだけで動揺する。

声の出し方も言葉遣いも、仕事場と家では違うのが当然だ。が、その落差を家族に知られるのは気恥ずかしい。さらに、家族同士でいるときは気にならないことも、そこに自分の仕事関係の人たちがいるとなると、粗相があってはならないという意識が必要以上に強くなる。

子どもは親が仕事をしている姿を見たほうがいい。ときには子どもを自分の仕事場に連れていくことも必要ではないか。家ではだらしなく見えていた親が立派に働いていることを知り、親に対する畏敬の念が生まれるであろう。逆もしかり。頼りないと思っていた子どもの仕事ぶりを見て、安心する親もいるにちがいない。

そんな意見に長らく同意してきた。が、このたび撤回いたします。仕事場での自分を身内に見られるのは難儀なことだ。実に疲れる。

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