MARUU=イラスト
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。知り合って三年あまりになる新進気鋭の人気ピアニスト石井琢磨さんこと「たくまちゃん」のコンサートに行ってきたそうで――。
※本記事は『婦人公論』2025年9月号に掲載されたものです

新進気鋭の人気ピアニストである石井琢磨さんのコンサートへ行った。知り合って三年あまりになるが、今や私は彼のことを「たくまちゃん」と呼んでいる。人なつこくていつも明るいたくまちゃんは、まるで親戚の子どものようである。知り合った当初はウィーン在住で、日本ではまださほど有名ではなかった(と思っていたのは私だけかもしれない)が、このたび、ベルリン交響楽団から招聘されたという。

「僕、すごいことになっちゃったんですよ」

その報を受けたとき、私は正直ピンと来なかった。すでにたくまちゃんはヨーロッパ各地で活躍し、日本での演奏回数も着々と増えていたからだ。ま、ソリストならそういう流れになるのかな、ぐらいの気持で「よかったね」と応えたら、

「もっと喜んでくださいよ。ベルリンフィルハーモニーホールで定期演奏会をするプロオーケストラに招聘された日本人は内田光子や小澤征爾など、ほんの数人だけなんですよ!」

そうか、そうだったのか。

三年前、私はテレビのバラエティ番組に呼ばれた。テーマは「挑戦」だった。何人かのゲストが自ら挑戦してみたいことをあげて、スタジオで披露するという企画である。