申し訳ない気がしたが、おかげさまで番組収録のための演奏をなんとか終えることができ、スタジオでは拍手が起こった。やったぜ! なんて気持がいいのだろう。石井先生のご恩は生涯忘れません。今後、ウィーンから帰国なさることがあれば、いつでも私がおいしいものをご馳走します!
それ以来である。約束通り、石井先生(最初はそう呼んでいた)とのご飯会を果たし、その後、石井先生の東京でのコンサートに何度か足を運び、楽屋に差し入れをし、LINEでやりとりする仲になった。
クラシックにさほど精通しているわけではない。コンサートへ赴いて、どのタイミングで拍手をしたものか、してはいけないのか、おたおたすることもある。聴いた覚えのある曲とはいえ、はたして誰が作曲したものか、にわかに思い出せない。それでも本物を鑑賞することの醍醐味を、たくまちゃんと出会ってさらに実感するようになった。
このたびのベルリン交響楽団とのコラボの来日公演はほぼ満席だった。会場全体に演奏への期待が満ち溢れていた。私はたくまちゃんの幼少期以来のピアノ恩師と席を隣にした。
「先生としては、今、どんな心境ですか?」
訊ねると、
「もう心配で心配で。大丈夫かしらって」
私のようなシロウトにしてみれば、外国の名だたるオーケストラの前で楽譜も見ずに一人で演奏するだけですごいと思うし、プロだから間違えることはないのだろうと決めつけている。でも恩師にしてみれば、可愛い教え子のピアノ発表会をどきどきしながら見守る心境なのかもしれない。「大丈夫大丈夫」と私は、なんの根拠もなく恩師、飯田桂子先生の背中をさすってお慰めした。
