いろいろ考えた末、私はピアノの連弾がしたいと申し出た。子どもの頃、ピアノを習っていたが、中学三年になったあたりでピアノ教室に通うことが億劫になり、あっさりやめてしまった。部活や友だちと遊ぶほうに興味が移ったからである。思えばもったいないことをしたものだ。あのまま続けていたら、さぞや趣味の幅が広がっただろうに。

ピアノをやめる直前、私がピアノを嫌いにならないようにと思ってか、先生が連弾曲を弾いてみないかと誘ってくださった。私がピアノの右端に座り、両手で簡単なメロディを奏でると、それに合わせて左側に座った先生が豪華な伴奏をつけてくださる。そのときの気持よかったこと。自分がものすごくピアノ上手になったような錯覚を起こしたほどだった。あの快感をもう一度味わってみたい。もはやソロで他人様に聴かせるほどの腕はないけれど、連弾ならなんとかなるかもしれない。

「連弾をしてみたいです」

すると番組スタッフが、

「わかりました。では伴奏をしてくださる方を探しましょう」

こうして当日、収録より数時間早くテレビ局に入り、練習をすることになった。グランドピアノの前で待っていると、アラレちゃんのような眼鏡をかけた愛らしい顔の青年が現れた。一見、中学生かと思うほど若々しいが、伺えば、プロのピアニストだとのこと。

「なんの曲なら弾けそうですか」

アラレ青年が私の左隣に座った。

「チムチムチェリーなら弾けるかも」

すると即座に豪華な伴奏を、まさに即興でつけてくださったのである。

その方こそ、石井琢磨さんだったのだ。ちょうどウィーンへ帰る日だったのに予定を変更し、出演を快諾してくださったという。