とうとうたくまちゃんが舞台に登場。拍手が止み、静寂が訪れた。ピアノの前に座り、居ずまいを正し、指揮者の視線を受けてウンと一つ頷くと、たくまちゃんが一気に弾き始めた。曲はシューマンが愛する妻クララに贈ったというピアノ協奏曲イ短調Op.54。
素晴らしい。よくわからないけど素晴らしい。ときにオーケストラの演奏に寄り添うかのごとく優しいピアニッシモで、ときに単独で身体全体を使って力強く、手を休めている間も、まるで自ら指揮者になったかのように拳を上下に動かして曲に乗り、曲の世界と一体化している。
演奏会へ行くといつも思う。音楽にはCDを聴くという楽しみ方も当然あるけれど、聴くだけではない。コンサートには見る楽しみもある。演奏者が楽器に向かい、どんな足の踏ん張り方をしているか。他の演奏者と音色を通して心を重ね、どんな顔でどんな目配せを交わしながら奏でるか。そんな様子を見ているだけで、観客は胸を打たれる。
隣の恩師様の思いが乗り移ったか、いつしか私も親戚の子どもの檜舞台を見ているような気持になり、演奏が終わった途端、なぜか涙が溢れてきた。よく頑張ったぞ、たくまちゃん。ブラボーでした!
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