薄い耐油紙ごしに衣の細かなおうとつが伝わってくる揚げたてのコロッケを、火傷(やけど)しないよう慎重に頬ばる。とろりと甘いバターの香りと、濃厚なじゃがいものうまみが口のすみずみまで広がった。
 義母が喜ぶ花束のイメージが浮かばず花屋を離れた舞子は、気がつくと福来屋六階の催事場で行われていた冬の北海道物産展のイートインスペースでじゃがバターコロッケを食べていた。歯ごたえのある衣を噛み砕くたび、喜びで脳が痺れる。疲れが溶けていく至福の味だ。
 平日の午後だが、催事場は大勢の客で賑わっていた。宝石のように輝く魚介類がふんだんに盛り付けられた海鮮丼、胃袋に直撃する香りを漂わせたラムチョップやホタテの串焼き、美しい赤紫色のハスカップジェラートなど、魅力的な商品がずらりと並んでいる。天国みたいだな、とため息が漏れた。日頃の悩みを忘れ、素敵なものに魅了されて心が浮つく。
 この天国みたいな空間をそのまま義母に贈ることができるなら、なにも悩まずに済むのに。
 お義母さん、物産展に一緒に行きましょう、は変か。奢ろうとしても恐縮されて、ややこしい事態になりそうだ。
 そこら中に表記された「北海道」の三文字を眺めるうちに、舞子は引っかかるものを感じた。なにかを忘れている気がする。
 そうだ。祐司の六つ年上の兄、浩一(こういち)は、北海道の野菜農家に婿入りしていた。彼は大学を卒業して種苗メーカーに就職し、のちに妻となる美里(みさと)と出会い、現在は夫婦で農業をしている。
 そういえば義兄一家は義母になにを贈るのだろう。一応確認しておいた方がいいか。舞子はスマホを取り出し、滅多に連絡しない浩一へメッセージを送った。突然の連絡を詫び、古希の贈り物を探している旨を告げる。