
正面玄関横に設置された「雀の巣」のモニュメントが多くの来店客から愛されている、福来屋日本橋本店。親しみやすいデパートで、食品から衣服、日用品、貴金属など様々なものを扱っている。この福来屋に今日もまた、何かを買い求めるお客さんが足を運び――。
デパートを舞台にした、彩瀬まるさんのWEB連載小説、お楽しみください。 それから、仕事も家事も手に着かない日が続いた。舞子は地域の臨床検査センターで働いている。担任との面談日を設定し、急遽有休を取得した。
絶え間ない焦燥感に胸を焼かれつつ、舞子は櫂人に繰り返し当時の状況を確認した。櫂人からまともな返事があったのははじめの二回ほどで、それ以降は特になにを思い出す様子もなく、目をそらして適当な相づちばかり打つようになった。さらに舞子を困惑させたのは、こんなに大人たちを心配させておいて、当の子供二人がまるで事件のことなど忘れたように休み時間に一緒に遊んでいることだ。櫂人がなにを考えているのか、よく分からない。どんどん分からなくなっていく。
そうして今日、とうとう担任と面談した。苦々しい顔で現れた年配の男性教員によると、どうやら本当に「バナナ」といった発言は龍生くんからあったらしい。
龍生くん自身は忘れていたが、その場にいた他の子供が覚えていた。また、龍生くんは「ダッセエ」と連呼して人をからかう癖があり、過去にも他の子供を泣かせたことがあったらしい。その件もあって、担任は周囲の子供への聞き取りを行ったようだ。
櫂人は嘘をついていなかった。ひとまず舞子は安堵を覚え、しかし状況のややこしさに頭を抱えた。櫂人のとっさに手が出る危うい気質を根気強く直していかなければならない。そして龍生くんは龍生くんで、攻撃的な気質を持っているようだ。付き合い方を考え、再び似たような暴言を吐かれたときにどう対処するか、櫂人とよく話し合う必要がある。
龍生くんの親御さんは、悪口なんて言ってないという龍生くんの主張を信じており、かなりこちらに腹を立てているらしい。気は重いが、誠心誠意謝り、再発防止に努める旨を伝えるしかない。なるべく早く謝罪の機会を設けてもらうよう担任に頼み、舞子は学校を後にした。
