【浩一さんたちはなにをプレゼントされますか? また、お義母さんの好物や、好きなものなどご存じでしたらアドバイスをいただけるとうれしいです】

 送信し、催事場を歩き回っていると、ほんの数分足らずで返事が届いた。

【舞子さん、こんにちは。うちの両親へは、野菜と冷凍のジンギスカンを贈ることが多いです。親父が高血圧で野菜をたくさん食べる生活を心がけているようなので、ちょうどいいかなと。母親の好きなものですが、私たちが子供の頃は仕立屋で働いていて、家でも巾着袋や小銭入れを作っては道の駅やフリーマーケットで販売していました。綺麗な布や飾りを好んで集めていた記憶があります。あと、十年ほど前は書店で働いていました。学生の頃、母親は勉強がよくできて、推薦で大学に行かせる気はないかなんて話が高校からあったそうです(その当時は女性は学問をするより家事を学ぶべきだという風潮があり、大学の話は流れたらしいのですが)。なので、本は好きだと思います。最近は目が疲れやすいようなので、もし贈るなら字が大きな本の方がいいかと。こんな感じでしょうか。あまり参考にならずすみません】

 英子がかつて仕立屋や書店で働いていたとは知らなかった。どちらも、現在の義実家の食卓ではまるで語られない内容だ。舞子は無意識のうちに英子に対して、若い頃からずっと家事と子育てに追われてきた人だという思い込みを持っていたことに気づいた。
 仕立屋に勤めていたなら――綺麗な布や飾りが用いられた、質のいい布製品や細工物を贈ったら面白がってもらえるだろうか?
 ただ、仕事でやっていたことがすなわち好きなものであるかというと、必ずしも一致しない気もする。特に、製作した小物類が販売するためのものだったなら、綺麗な布や飾りは好きで集めていたというより、仕入れの一環だったのではないだろうか。
 それならば本――本は、花よりもさらに好みが分かれる品物だ。婦人向けの雑誌を差し入れるのも悪くないが、それは古希の贈り物というより、日常的な手土産として渡す方がいいだろう。
 悩ましい。舞子はひとまず浩一に向けたお礼のメッセージをスマホに打ち込んだ。
『――そんな古い中傷が、今でもあるの?』
 指を動かしているうちに、かつて耳にした英子の声が唐突に舞子の脳裏に蘇った。

【関連記事】
彩瀬まるの小説連載
「天国をひとすくい」シリーズ第1回 
屋上にて
彩瀬まるの小説連載
「天国をひとすくい」シリーズ第2回 
屋上にて