数値化されるものに引き寄せられ……
新井 先ほど「AIは間違わない」という話がありましたが、私は逆に、「なぜAIが正しいと思うんだろう」と不思議でなりません。AIが行っているのは「計算」です。計算には、足し算、引き算のように正解がはっきり出るものもありますが、AIが行うのは、ビッグデータ――大規模なデータから統計をとって、「これがいちばんありうるものだな」というものを出してくること。
重松 正しい答えを出しているわけじゃなくて、統計と確率で「これ」だろうと。
新井 もっともらしいことをやる、というだけです。そして、現時点で、AIは意味を理解できません。たとえば、iPhoneに入っている音声認識応答ツールのSiri(シリ)に、「太郎は男の子の名前ですか、女の子の名前ですか?」と聞くと、「面白い質問ですね」「すみませんが、それはできません」といった言葉は返ってきますが、問いには答えてくれません。
なぜかというと、質問のなかの単語とその組み合わせから統計的に推測して答えを出す、つまりキーワード検索なので、「どっちか?」という問いには、どう答えていいかわからなくなるのです。
重松 となると、検索してもらいやすい質問の仕方になりますね。
新井 そう、Siriに合わせてしゃべるようになる。
羽生 日々の生活のなかにAIが浸透し、それが当たり前のようになってくると、受け取る側の感受性も変わってきます。人間が知らず知らずのうちにAIに寄り添っていくんですね。音楽も、売れるかどうかAIで調べて、たとえば、「よし、最初のほうにサビをもってこよう」とか。
新井 人が、数値化しているものに対しどんどん強く反応する。
羽生 だから、「いいね」の数やフォロワー数に引き寄せられる。とくに10代、20代の若い人たちはそうですね。数値化されないものには、なかなかつきあってくれない。
重松 それで、最近の小説は「何十万部突破!」というベストセラーがさらに売れていくのかも。
新井 「食べログ」も同じですね。星が4つついているお店に食べに行くと、「おいしかった」という気持ちになるんです。
羽生 それはそれでいいと思うんです。資本主義とAIが結びついて、経済がまわっていく。ただ、数値に表れないものがちゃんと存在していくこと、そのよさが評価されること、これも大事ですよね。
新井 その通りです。最近ではアメリカのとても優秀な大学院生がグーグルやアマゾン、アップルではなく、NPOやNGOを目指す傾向があります。昔はIT企業で社会のインフラを作って、自分のアイデアが世界中で使われることに高揚感を抱く人が多かったのですが、大企業の裏側がわかったら、搾取する側にはなりたくないと……。世間の流れが右に行けば、左に行く人が必ず出てくる。人間って面白いですね。