新井さんと羽生さんが抱いているのはラボット(撮影協力:GROOVE X 株式会社)。重松さんはアイボ(ソニー/カメラマンより拝借)。いずれも人の“家族”となるべく開発されたロボットだ(撮影:木村直軌)
上の写真で三人が手にするロボット。実はこのすべてにAI(人工知能)が搭載されています。スマホや家電にもAIが使われ、身近で便利な存在になる一方で、脅威を感じるとの声も聞こえてきます。でもAIっていったい何? ゲストは将棋ソフトを活用している棋士の羽生善治九段と、東大入学を目指すAI「東ロボくん」の育ての親である新井紀子さん。作家の重松清さんが最先端のAI技術に触れるお二人に斬り込みます(構成=福永妙子 撮影=木村直軌)

“AI美空ひばり”に欠けているものは

重松 「AI」という言葉が今、時代のキーワードになっています。AIが仕事を奪うんじゃないか、人間の能力を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)は来るのか……議論は盛んです。僕が最近気になったのは、2019年末の『NHK紅白歌合戦』に登場した“AI美空ひばり”です。「感動した」という声がある一方で、「違和感がある」など反発もありました。羽生さんはご覧になりましたか?

羽生 ついに、こういうことまでできるようになったのか、というのが率直な感想でした。ただ、歌は人の主観に訴えるもの。美空ひばりさんは昭和の象徴的な存在でもあるので、どう受け止められるか、大きな挑戦だと思いました。

新井 私の所属する国立情報学研究所には、病気などで声を失った人が、過去の音声データを元に本人そっくりの合成音声で話せる技術の研究をしている教授がいます。その人によれば、3分から5分の録音した音声があれば、かなりの精度で復元できるそうです。美空ひばりさんの場合は膨大な量の音源があるので、さらに精度の高いものができるでしょう。ただ、好きか嫌いかは分かれるでしょうね。

重松 と言いますと?

新井 歌唱データはデビュー時から晩年まで蓄積されています。同じ美空ひばりさんでも、「リンゴ追分」の頃と「川の流れのように」の頃では、声質も、キーの高さ、歌い方も違っているはず。それらを数値化して、全部混ぜ、平均をとるのがAIです。だから、のっぺりした感じというか。

重松 僕が小説を書く人間だから思うのかもしれませんが、僕たちは、美空ひばりさんの歌を、「戦後の復興期に国民に勇気を与え、私生活では不遇の時代や大病もあって……」という物語と一緒に聴いている。そういう数値化できないものをまとっていない気がして、“AI美空ひばり”は、僕にはすごく違和感があったんです。

羽生 先ほど「美空ひばりさんは象徴的」と言ったのもそこです。苦しい時代をみんなが共有し、歌声を聴くとそのときどきの万感の思いがこみ上げる。現代は多様化しているので、そういう方はいませんが。