一人でしゃべり続ける難しさ
久保 そうそう。今回、相談したいことがあったんですよ。能町さんの講演問題。
能町 私の講演(*)がひどかったっていう。いや、私がひどいと思ってるだけで、お客さんはいいと思ってたのかもしれないけど。でも「一人での講演はもうやらないほうがいい」という気分になってます。
*相手がいるトークイベントは何度も経験しているが、単独での講演会はほとんど受けたことがなかった……のに、ある講演会を引き受けたところ、客の年齢層が高め、自分のことを知っている人が大半というわけでもない環境で、聴衆の心をつかむようなスピーチができなかった……と感じたという話。
──アウェイの環境だったら無理もないですよ。
能町 まあアウェイですけど……私、巻いて(持ち時間90分のところを)65分くらいで終わっちゃったんですよ。あれはほんとに困った。
ヒャダ あとの25分はどうしたんすか?
能町 質疑応答みたいなことをやって、それからちょっと思い出した話を途中で追加して、それでも余ってまた質疑応答にしました。もう全然、自信がないです。やれと言われてもやれる自信がまったくない。
──90分のうち1時間もっただけでも、それはそれですごいんじゃないですか?
能町 うーん、そうなんですかね……。
──ひどい講演を聞いたことがあって。僕の成人式なんですけど、会場が福岡国際センター(キャパ1万人)だったんですよ。そこにゲストスピーカーとして来てたのが大仁田厚で。当時、「ファイヤー!」と叫ぶのが流行ってたから、「若者への熱いメッセージ」を期待して呼んだんだと思うんですけど、30分もたなかったんですよ。15分くらいだった可能性すらある。
能町 えっ、どういうことですか?
──若者へのメッセージっぽいことを言うのは言うんです。でもそれが一言二言で終わって、まとまったトークとして続かないんですよ。たとえば「俺は、斜に構えた奴が嫌いだ!」と言ってそこで止まる。そこから少し沈黙があって、またメッセージっぽいことを言うんだけど、前の話とは全然違う内容で、やっぱり続かない。ちょっと話してシーン……ちょっと話してシーン……というのを繰り返してて、「なんじゃこりゃ?」と思ってたら、急に大声で「すまん! 何も考えてこなかった!!」って。
一同 (爆笑)
能町 いさぎよい(笑)。
ヒャダ 自分の過失を認める(笑)。
久保 撤退の美学を感じる。ある意味、「大人になってまず使える知恵」を授けてもらったのかもしれない。「何かあったら大人は謝る」という。
能町 それで、そのままステージから降りてしまったんですか?
――そこからちょっと謝罪の語りがあって、でもそれも長くは続かずにそのまま終わりました。大きなホールだったのに、最後の拍手がまばらだったのを覚えてますね。
能町 まあそうなりますよね。
ヒャダ だから対談形式が一番楽なんですよ。
能町 ほんとそう。
久保 ホームでわかってくれる人たちに話すのが一番いい。
能町 それはもう、甘やかしてくれるのがベストです。
久保 自分の文章があんまり好きじゃないのって、例えば映画の感想とか、マンガの感想とかがそうなんですけど、ナラティブ(*)に話しすぎちゃうんですよね。
*最近よく聞く言葉ですが、この文脈では「主観に基づく語り」くらいの意味です。
ヒャダ いいことじゃないですか。
久保 感想でナラティブが濃すぎるのって、人によっては嫌われるわけですよ。「正しい批評じゃない」「自分語りが多い」みたいに思われて。その作品がどうであるかより、ただの自分語り……それこそ「それってあなたの感想ですよね?」みたいな。作品によって語りたい気持ちが引き出されるから、つい伝えたくなっちゃうけど、「この作品のここが素晴らしいよ」というのを、私はあまり理路整然と伝えられないタイプなんですよ。自分自身が一番それを感じてる。だから批評家としては、たぶんなんも役に立たない。
能町 批評はしなくてもいいと思いますよ。
久保 「久保みねヒャダ」みたいに「自分の感想を言うのが許された場」だったらいいけど、専門的な会話を求められるような批評になると、私は絶対無理だなと思っちゃう。ヒャッくんはヒャッくんで、音楽を作っている立場から批評的なこと言わないといけないときもあるでしょ?
能町 審査員というのもありますからね。
ヒャダ 私は「言語化のヒャダイン」って言われてるくらい、言語化は得意なんで。
久保 言語化のヒャダイン! ナラティブなことはあんまり話さない?
ヒャダ 話さないです。「99%の分析と1%の情熱」みたいな感じで話してます。
久保 そうか……だから私は真逆なんだよね。
ヒャダ 情熱は情熱で必要なんですよ。1%の情熱をお塩みたいに入れたら、言葉が引き締まるんです。体温がもつというか。でも99%の情熱だったら「何言ってんの」みたいに……。
久保 なりますよね。いやー、難しい。結局、私の自分語りは場所をめっちゃ選ぶというのがわかってしまった。
ヒャダ 今日みたいな場所だったら、むしろ自分語りしていただきたいですよ。
久保 うん、場所によるなと思って。だから私は(自分語りをしすぎるから)エッセイにはたぶん行かない。エッセイマンガにも行かないなと思う。それならフィクションのほうを描きたい。だから今回こうやって(机にある『かわいい中年』を取り上げて)、私の自分語りが本として出るのはありがたいなって。自分で原稿を書いたわけじゃないのに、本が出るなんてすごい。ありがてえ!
【書籍情報】
久保ミツロウ・能町みね子・ヒャダイン
2月9日発売!「かわいい中年」(中央公論新社)


定価:2,090円(10%税込)
ふいに出来る友達、家族の見知らぬ顔……ほろ苦い人生こそ愛おしい、中年期の心をほぐす処方箋。
「雑談がこんなに面白いの、反則だと思います!」岸本佐知子さん悶絶。
フジテレビ系トークバラエティ番組『久保みねヒャダこじらせナイト』の3人による密室トークを書籍化。
【ライブ情報】
『久保みねヒャダこじらせライブ』
開催日:2026年4月11日(土)
会場:フジテレビ本社スタジオ(予定)
昼公演:【ゲスト】ROIROM
夜公演:【ゲスト】田中裕二(爆笑問題)
*チケット情報の詳細は番組HPにて後日発表。
【番組情報】
ほぼ隔週で放送中
『久保みねヒャダこじらせナイト』
次回放送:3月7日(土)フジテレビ 深1:45〜2:15









