わたし以外にもいた! 


いや、まさに、そのとおり。その時の私は、個人的にとても辛いことがあり、無茶苦茶へこんでいたのでしたが……さすがにお仕事現場にそういう事情を持ってゆく訳にはいかない、だから、“なるたけ元気な素子ちゃん”を装っていた筈なんですが……そんな私の、子供じみた虚勢、結局の処、社会経験が豊富な目上の方にはばればれだったのか?
ところが。その方のお返事、私が思っていたのとはちょっと違って。なんか、斜め上の方向って感じで……。
「いや……いつもショルダーバッグにつけているぬいぐるみがね、妙に暗い顔になってるし……辛そう、だから。だから、何かあったのかなって」
「……!!!!!」
「あ、違ったらごめんね。いや、何となく、ぬいぐるみの顔を見ていたら、新井さん、何か辛いことがあったんじゃないかと」
……!!


私の顔を見て、じゃ、なくて。
ぬ……ぬいぐるみの。
うちのぬいさんの表情を見て。
それで、こんなことを言ってしまえる、そんなことが判ってしまう、そんなひとが、私以外にもいるのか!
うわああああ!


この時。私には、この方に言いたいことや、ぜひ言ってみたいことや、聞きたいことが、多々ありました。でも、驚きがあんまり凄くて、私、そんな肝心なことをこのひとに聞けなくて。枝葉末節のことばかり、聞いてしまいました。
「あの……どうしてうちのぬいぐるみの表情が……判るんですか……」
「いや、うちの娘がぬいぐるみ好きでさ、新井さんみたいに、ほんっとにぬいぐるみを可愛がっている訳。そして、娘のぬいぐるみを見ていれば判る。うちのぬいぐるみは、娘が機嫌がいいとほんとにいい表情になっているし、娘に辛いことがあると表情が曇る。そういうものを見ているから、今日、ひとめ見た瞬間から、新井さんのぬいぐるみが辛そうな感じになっているから……だから、何かあったのかなって」
うわあああ。


今にして思えば、私、この方と、もっといろんなことをお話ししたかったです。でも、お仕事中でしたから。
「すみませーん、収録始めます」って言葉がかかっちゃって……この話は、ここで終わってしまいました。
ただ。
この時の感動だけは、今でも私の心の中に残っています。