郵便受けのかご。出したい時は札を返しておく。「郵便屋さん、投函してください」。(写真提供:『今だからわかること 84歳になって』/KADOKAWA)

郵便ポスト

この地域には、冬だけ、郵便屋さんになる人がいます。

最初はびっくりして、「他にもこんなことをする人がいるの?」って聞いたら、やっぱりいるんですって。ここでは、農閑期の仕事として慣習になっているようです。

ふだん彼は、農業をやっていて、私の家の草刈りも手伝ってくれたり、奥さんの作った野菜を届けてくれたりするのですが、初雪が降って、いよいよ冬が来たなと思うある日を境に、郵便局員の格好をして郵便物を届けに来るのです。まるで絵本の題材にでもなりそうな話だと、おかしく思いました。

私の家のポストは、手作りです。大きなカゴを郵便受けにして〒と記した厚紙を置き、送りたい郵便物がある時は、それを裏返して、「郵便屋さん、投函してください」と書き入れて郵便物を入れておくと、届けるついでに、持って行ってくれます。遠いポストに投函しに行かなくてもいい。

頼めば、切手やレターパックなども必要な数だけ持ってきてくれて、おまけに、息子宛ての宅配便の送り状に、彼の住所を打ち込んで持ってきてくれました。

世間話などもちょっとして。そんなやり取りを楽しんでいます。この土地の郵便屋さんが届けてくれるものは、物だけではないみたい。

 

※本稿は、『今だからわかること 84歳になって』(末盛千枝子:著/KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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今だからわかること 84歳になって(著:末盛千枝子/KADOKAWA)

年を重ねると物事への理解が深くなって、これまでの経験が「そういうことだったのか」と思えて楽になるのよ――。
上皇后美智子様の長年の親友で、彫刻家・舟越保武の長女。舟越桂、直木の姉。名編集者として活躍するいっぽう、私生活は荒波にもまれた。84歳の今、岩手山を望む家に一人で暮らし、自然のリズムに合わせて穏やかに呼吸する。