日常シーンの描き方
<何も起こらない日々を描いてきた『ばけばけ』。印象的だったのがトキたちがヘブンからスキップを教わった第8週だ。以降、勘右衛門が長屋の子どもたちにスキップを教えたり、嬉しいことがあるとトキが1人でスキップをしたり…。たびたび劇中に登場した>
ヘブンさんという異人が松江にやってきたことによって、いろんな文化やしきたりが入ってきます。たとえば「靴のままで家に上がる」とか、ベタな外国の文化を書くこともできたけれど、そうではない、当時の人たちが知ったら驚く、ちょっとおかしみのあるものは何だろうと考えたら、それがスキップでした。その後、トキやヘブンの心情がスキップで表現されるようになりました。松江大橋でトキがスキップする場面がすごく好きです。
日常の何気ないシーンが注目されていますが、「よし!書くぞ!」と意気込んで日常シーンを書いているわけではありません。たとえば、幼いトキがしじみ汁を飲んで「ああ~」と言うシーンがあります。司之介は「はしたないぞ!」と注意をする。これも、意図はなくて、書いてみたら、たまたまはまった。「ああって言うのは武士の娘ではない」というのは司之介の勝手な思い込み。それを見せることで、司之介のおかしなところを端的に描けると思いました。
トキは大人になっても、しじみ汁を飲んだ後に「ああ~」と言います。『ばけばけ』は、トキが何者かになる物語でもなければ、成長する話でもない。トキはずっとトキのままでいてほしいという僕の思いがある。しじみ汁を飲むトキは、「変わらなさ」を象徴するシーンなんです。