計算の立たない現実
川嶋監督は、ドラマの現場でキャリアを重ねてきました。一方、ドキュメンタリーはドラマと違って演出はありません。人物にフォーカスをあて、映像に収める。食事中などの何気ない会話にこそ、その人の本質が宿る――。緻密に構成できるドラマとは異なる「計算の立たない現実」と向き合う中で、川嶋監督はドキュメンタリーの面白さを実感したのです。
一方で、取材の難しさもありました。
桂子さんは、自叙伝を綴り、自ら体験を語るほど「記録を残さねば」という意識が強くあります。川嶋監督と桂子さんとの間には、信頼関係がありました。当初からドキュメンタリーを撮影する意義を共有していたのです。
ただ、人にはそれぞれの思いがあります。
桂子さんは子どもが生まれるまでのことは話してくれましたが、子どもたちのことは語りたがりませんでした。だからこそ、子どもたちの話が必要だと考えた川嶋監督が桂子さんの次男にインタビューを申し込んだ時のことです。
「インタビューを撮りに来るなら、お前とは会わない」と言われました。
「恐らく彼は10代の頃、戦争花嫁の子どもとしてアメリカで育つ中で葛藤し、差別を感じたのでしょう。桂子の長女・キャレンも『戦争花嫁は大嫌い』と吐露しました。しかし、孫の代であるヘザーさんは日本人がルーツであることに誇りを持っていたんです」
世代によって、「戦争花嫁」に関する感情には差がありました。インタビューを通じてそれが浮き彫りになったのです。