新刊『兄の終い』で、疎遠だった兄の遺体を引き取り、後始末をした怒濤の5日間を克明に綴った村井理子さん。兄の元妻や娘と共にさまざまな手続きに奔走、その濃密な時間の先にたどり着いた境地とは(構成=山田真理 撮影=霜越春樹)
何年も会っていなかった兄の訃報を受けて
昨年10月、私は何年も会っていなかった兄が死んだという連絡を宮城県の警察署から受けました。遺体を引き取り、火葬し、ゴミ屋敷と化した多賀城市のアパートを片付け、兄と暮らしていた小学生の息子・良一くんの今後を考える。その5日間を綴ったのが、本書『兄の終(しま)い』です。
翻訳やエッセイの仕事を抱えながら、突然始まった怒濤の日々。疎遠だった兄の家を片付けるというテーマに興味を持った編集者の提案で一冊にまとめたのですが、思いがけず多くの方から反響がありました。それだけ、家族との関係に悩んでいる人がいるのでしょうね。
わが家の場合、兄と母は共依存の関係にありました。母は兄を溺愛し、兄も生活と金銭の両面で母に甘えきっていた。生涯を通じて兄は女性がそばにいないと生きられない人で、それが母であり、2人の元妻や付き合った女性たちであり。そして最終的には、妹の私だったのです。
私は、6年前の母の葬儀を最後に兄と会うのをやめました。がんを患った母を看病することも、死後の手続きに一切関わることもなく香典の額ばかり気にしていた兄。それ以前から私は、高齢の母に代わって兄のアパートの保証人にさせられていました。滞納している家賃の肩代わりは断ったものの、葬儀の帰り際に「宮城へ帰る交通費がない」と言われ、押し付けるように5万円を渡したのが最後です。