人物の感情世界が激しく魅力的な韓国映画

『しあわせな選択』というタイトルで再就職を扱うなら、「価値観の転換によって、小さな職場や異業種での新しい人生に生きがいを見出していく」的な展開が普通。

しかしこの作品は違う。男たちはどこまでも「過去の経歴」と、「今所有しているもの」にしがみつき、リストラで精神の平衡を失った(と解釈するしかない)主人公は、自分と同じ会社へ再就職を目指す人物の履歴書を手に入れ、有利そうなライバル、ク・ボムモと、コ・シジョを殺すことを思いつく。

映画『しあわせな選択』 場面写真
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「再就職のために殺人しますか!?」と思うのは私だけではないだろう。どこがしあわせな選択か?と。しかしその違和感を、映画の面白さが凌駕する。理解しがたいが気になる主人公の行動、次々現れる個性的な人物の面白すぎる言動に私たちは目を奪われ、気が付くとすっかりこの映画に没入して、「まあ、殺したくなる気持ちもわからないではない」と、納得させられてしまっている。これが卓抜な技術で作られた映画力と言うものなのか。

それにしても、しばしば韓国の映画においては、いとも簡単に人が殺されていく。また、人物の感情世界が激しく、魅力的。特に輝いているのは、解雇が原因でアルコールにおぼれているク・ボムモの妻イ・アラ役のヨム・ヘラン。

オーディションに落ち捲る女優の役だが、「今回落ちたのは、私の肌がモチモチすぎて、中年の未亡人にそぐわなかったからよ」などと叫び、美人じゃないのに自己愛の強さと、自己陶酔は半端ない。「潤滑油が必要なの」とセックスをあからさまに求め、夫が不能と知ると、若い男を自宅に引き込み、肉欲にふける。その欲望の深さは、痛快なほどだ。

また、最初は美人な良い妻に見えていたマンスの妻イ・ミリもいい意味で私たちを裏切ってくれる。父の家計のひっ迫から盗みに走った息子を懲役刑から救うため、被害者の店主に胸元が透ける服装で、「示談のお礼は私の体」と匂わせたり、なかなかやるのである。

映画『しあわせな選択』を観たさかもと未明さんのマンガ
イラスト提供:さかもとさん