これでもかとばかりに人間の本性を暴いていく

それぞれの人物が倫理観などそっちのけで自分の欲望に忠実に行動。悪い奴は悪い奴、ライバルはライバル。だから敵役が殺されたときは爽快感さえあり、そのあたりが、韓国ドラマや韓国映画の魅力なのだと思う。「悪い奴にも理由があったんだな」などとうじうじ考えないのは、日本映画やフランス映画の対極を行き、これでもかとばかりに人間の隠された本性、悪の部分を暴いていく。

おそらく韓国人にとって基本は「人間性悪説」なのではなかろうか。「自分と家族が生き延びるための殺人」に、迷いながらも突き進んでいく主人公。アメリカの親会社の決定で、人が人を食うような過当競争の椅子取りゲームに身を投じることを、苦しみながらも受け入れていく。

イラスト提供:さかもとさん

 

この作品の中で、唯一ぶれないのは、自閉症の娘リウォンだ。彼女は自分の芸術という、内的価値の世界にだけ生きるので、外で何が起ころうと関係ない。勿論家計の不安には反応し、愛犬たちを失って悲しむが、それで「折れて」しまうことはない。彼女の生き方はその後の展開の中で福音となる。

「殺人コメディー」という、ブラックユーモアたっぷりの、火曜サスペンス劇場的な展開と、映像は実にリアル。一方、どろどろの人間ドラマの合間に差し込まれる自然の映像、編集の素晴らしいこと! カメラはすでに映画賞で評価されているが、編集部門でも大いに評価されるべきだろう。

時間軸を壊して登場人物の内面をえぐり、観客を引き込む演出は見事。そして少しSM趣味の入った「殺人手法」も見どころの一つだ。

原作はアメリカの作家ドナルド・E・ ウェストレイクの『斧』。紙の原料である木を切り倒す斧は「首切り(Fire)」を連想させ、うってつけのタイトルであるが、テーマが見えすぎることを嫌い、また、舞台を原作のアメリカから韓国へ移すためにパク監督が自ら脚本を書き直した。『しあわせな選択』というタイトルは日本オリジナル。これはブラックユーモアたっぷりの、実に卓抜したタイトルだ。

映画『しあわせな選択』 ポスター
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最後に私たちは、殺人にまで至った解雇の悲劇の重みと、「本当の犯人」を知る。その時私たちは、これは「コメディ調殺人サスペンス」の仮面をかぶった、「社会問題ホラー」なのだと気づかされる。

最後の5分のまとめ方は秀逸この上なく、この映画へのイメージを逆転させ、私たちに強いショックと余韻を残して映画は終わる。その時に流れるのは娘リウォン(本当は世界的なチェロ奏者ジャン=ギアン・ケラス)が奏でる美しいチェロ。きっとあなたはその響きに囚われ、余韻で身動きできないだろう…。

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