2人の出会いの場面。ユン・セリ(左)が操縦していたパラグライダーが竜巻に巻き込まれ、北朝鮮に不時着するところから物語は始まる

キャリアウーマンの夢を実現したヒロイン

古市 僕がいいなと思ったのは、ジョンヒョクがセリの長い髪を結んであげるシーンですね。

中瀬 北朝鮮では髪を下ろしている女性は変に思われるから、って。

古市 日本で同じことをしたらただの格好つけたイヤな男に見えるかもしれないけど、彼は純粋な厚意としてやっている。ラブシーンの基本って、傘をさしてもらうとかバッグを持ってもらうとか「自分でもできることを誰かにしてもらう」ことですが、それをあざとくなく自然に描いているのはさすが。

中瀬 セリは韓国にいたら仕事をバリバリこなす財閥令嬢だけど、北朝鮮に来たことでその高スペックが無力化され、生活能力のない平均以下の女になっている。すべてを削ぎ落とした素の彼女をジョンヒョクは愛してくれるわけ。もはやこれはキャリアウーマンの夢と言ってもいいくらい。

古市 僕は、理想の恋人というのは記憶の中の誰かだと思ってるんです。アニメ『君の名は。』もそうですが、一番好きな人は記憶の中にいる。このドラマは普通に話を進めながら、「実は」と過去の縁に繋げていくところがすごくうまい。

中瀬 記憶の中の理想の恋人を最初に出してしまったら、あとは幻滅という引き算をしていくしかないものね。これから観る人のために、核心に触れることは避けるけど、足し算することで記憶とリンクさせていくのは、ドラマの盛り上げ方として素晴らしいと思う。オープニングの映像もお洒落でステキなんだけど、後のほうで、その意味がさらにわかって胸が熱くなったのよね……。