北朝鮮の日常生活が垣間見られるドラマ
古市 北朝鮮の日常を描いている点も興味深いですよね。人を泊めていないか夜中に抜き打ち検査があったり、市場では密かに韓国製の化粧品が売られていたり、とか。
中瀬 お金持ちの家には冷蔵庫があるものの、停電するから本棚として使っていたり。北朝鮮に住んでいた人にリサーチしたそうだけど、初めて知ることも多かった。
古市 停電で、電車も草原の真ん中で止まってしまう。車内は寒いから、外でたき火しながら一晩過ごすんですよね。あのシーン、僕はすごくロマンチックだと思いました。貧しさゆえの行為なんですが、考えてみたらコーヒーの自家焙煎もたき火も、日本では余裕のあるお金持ちがやることじゃないですか。トップとボトムがやることって実は同じなんだなと。
中瀬 ローソクを灯すのも、今やオシャレなことだもんね、「スローライフ」とか言って。北朝鮮では停電で仕方なくやってるんだけど。
古市 そうそう。僕らが昭和30年代の暮らしにノスタルジーを感じるように、北朝鮮の不便さが素敵に見えてしまうんですよ。
中瀬 汚い部分は一切出てこないもんね。
古市 北も南も、きれいなところだけを描いている。創作でまで現実を突きつけられたくないですよね。
中瀬 あと、ジョンヒョクの婚約者・ダンがロシアでの音楽留学から帰国した時、平壌で百貨店を経営する母親が「こんなに痩せて」と嘆くシーンがあるじゃない? ただダイエットして綺麗になっただけなのに。やっぱり北朝鮮では、まだ太っていること=豊かさなんだなと思った。反対に母親はぽっちゃりしてるのに、ダイエットしなくちゃとは言わない。
古市 ダンは背もスラッと高くてモデル体形なんですよね。
中瀬 ところで私、まわりからダンの母親と、2回ほど出てくる北朝鮮の占い師に似てるって言われるの(笑)。だからというわけじゃないけど、このドラマの誰に自分を投影するかというと断然北朝鮮の主婦チームなのね。ジョンヒョクのご近所の主婦たちが、めちゃくちゃいい味出してるのよね。女同士の連帯、シスターフッドという感じで。厳しい暮らしのなかで支え合って生きる姿にグッとくる。古市は誰に自分を投影した?
古市 投影というか、憧れるのはセリですかね。実家が韓国の財閥で自身も有能で、権力者の恋人がいるなんて最高じゃないですか。
中瀬 結局そこかい。(笑)