娘には「一緒に暮らさないか」と誘われるけど

3年前から、美恵子さんのもとに1日2回通っている「エイプレイス新宿」(定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービス)の管理者、川窪諒さんは、曜日ごとに区分けされたウオールポケットの薬を見ながら、こう話す。

「足腰もまずまず丈夫で、おひとりで生活はできますが、軽度の認知症が見られる要介護2の状態。頻繁に薬の飲み忘れがあるので、毎日、朝と夕に薬を飲んだかを確認し、忘れがちなゴミ出しを促します。忘れているよと言うと、ご自分できちんと下のゴミ置き場まで持って行かれます」

処方された薬を曜日ごとに分類。1日2回訪れるヘルパーが飲んだか確認してくれる(撮影:本誌編集部)

ヘルパーは毎日の訪問で変化していく暮らしぶりを観察し、できないところをサポートする。自身でできることには手を出さないのがポイントだ。

じつは、美恵子さんは過去に2回、バスを降りる際に転倒し、腰を骨折したことがある。2週間の入院を経て家に帰ったときは、おむつを使用していた。川窪さんは、このままおむつで過ごすようになるかと危惧していたという。ところが、奇跡的な快復をし、今では普通の下着をつけて、排泄に何ら問題がない。本人はその事故のことも忘れているが──。

50代になる孫は月に1度訪ねてくる。忘れっぽいのを心配して、部屋のあちこちに「ゴミをおきっぱなしにしないこと」などといったメモを貼っていく。埼玉県に住む娘からは、「心配だから一緒に暮らさないか」と誘われるが、応じないでいる。

「あちらに行っても知っている人もいないし、家事を手伝おうとすると、危ないからやめてと怒られる。大きなテレビを買ってくれて、それを見ていろと言われるけれど、じっとしているのは嫌。ここで暮らしているのが気楽でいいの」

笑顔で話す美恵子さんは、今の生活をとても楽しんでいるように見えた。


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