若い人たちとネットの世界に飛び出して
前回『婦人公論』に出させていただいたのは2012年。事務所の問題を発端にマスコミから思いもよらぬバッシングを受けた後でしたが、あの頃の私は「よし、気持ちを切り替えよう」と、すごく前向きでした。気持ちが吹っ切れると、新しい出会いが生まれ、新しいことが始まるんですね。私の場合、そのひとつが、ネットの世界での活動です。
きっかけは、ニコ動(ネットの動画共有サービス)の「ニコニコ生放送」から出演を依頼されたこと。私はそちらの世界はまったく知りませんでしたが、うちのスタッフは「面白いですよ」と言います。若い人たちにそんなに支持されているのなら、どんなふうに面白いのか、自分で経験してみよう。そう思って、お引き受けしました。
そうしたら、見たこともないような小さなスタジオで(笑)、カメラもテレビカメラではなく一眼レフ。その代わり、モニターはすごく大きいんです。そして司会の方が「今日のゲストは小林幸子さんです」と言ったとたん、モニターに「わっ、本物だ」とか、次々と視聴者からのコメントが出てくるのでびっくり! 私のいでたちが、ゲームの最後に出てくるボスキャラに見えることから「ラスボス」なんて呼ばれたりして。
そこからすっかり面白くなり、「ぼくとわたしとニコニコ動画」という歌をカバーして投稿してみたところ、なんと2日と6時間半ほどで再生数が100万回を超えたのです。歌詞を読んで感じたのは、今の時代、行き場がなくてひとりぼっちの子が大勢いて、その子たちにとってネットはすごく大事な場なんだということ。
若い人たちがパソコンで作曲して、インターネット上で公開する「ボカロ曲」にも興味を持つようになりました。ボカロ曲とは、ボーカロイドというソフトウェアを使って作曲し、特定のキャラクターの楽曲として作成した曲で、歌声は機械で作ります。生身の人間が歌っているわけではないので、たとえば100小節も息継ぎする場所がないとか、いきなり1オクターブ音が飛ぶとか、とんでもない曲もあります。すると、「なんとか歌ってやろうじゃないの」と、歌手魂がムラムラ湧いてくる(笑)。チャレンジするのが楽しくて、おかげで細胞がどんどん活性化していきました。
いい曲もたくさんあります。たとえば「千本桜」も、もともとはボーカロイドのキャラクター「初音ミク」を使ってネット上で公開され、2012年の「好きなボカロ曲ランキング」調査で1位をとった曲です。15年には『NHK紅白歌合戦』でも「千本桜」を歌わせていただき、子どもからお年寄りまで、口ずさむ曲となりました。