そういえば「ニコニコ超パーティー」というイベントで歌った時のこと。会場に集まった若い子たちが、私の歌を聞いて泣いているんです。彼らは小さい頃、アニメ『ポケットモンスター』の映画版主題歌で私の歌を聞いていたんですね。小林幸子は演歌の歌い手だとまったく知らない子たちが、「ポケモン神曲を歌った小林幸子」として私のことを認識している。ホンモノが目の前で歌っているというので、感極まったみたいです。

1万人の声援にこたえて「千本桜」を熱唱する小林さん(写真提供◎「ニコニコ超パーティー」)

おかげさまで、今はコンサートを開くと、55年前にデビューしたときの私を知っているお客様も来てくださるし、40年前にダブルミリオンをいただいた「おもいで酒」をきっかけにファンになった方、そしてボカロ曲を歌っている私が好きだという若い方も来てくださる。なかには家族三世代でファンクラブに入ってくださる方もいて、本当にありがたく、不思議で。人生って面白いなと、つくづく思います。

「結婚」の二文字はまったくなかったのに

私がニコニコ動画に出たり、投稿をしたりし始めた頃、まわりからは「そんなマイナーなところに行ってどうするんだ」と、ずいぶん批判されました。でも、当時そういうことを言っていた人たちは、今になって後れをとっているようです。

時代はどんどん変わっていきます。しかも、変化の速度が速くなっている。だったら、その変化を楽しみたいですよね。若い人とは「感覚が違うからつきあわない」ではなく、「感覚が違うから面白い」と思ったほうが、人生楽しいですから。

「思い込みを捨て、思い付きを拾う」という言葉は、私の座右の銘のひとつです。その精神が自分を新しい世界に導いてくれると信じています。

実は「思い込みを捨て、思い付きを拾う」は、夫が教えてくれた言葉です。彼は再生医療に関する事業を行っているため、医療関係の先生方と会合などを持つ機会がよくあります。医療の世界では、偉い先生に対して若い医師や研究者たちがなかなか意見を言いにくい空気もあったとか。でも夫やその仲間たちは、「今までの常識にとらわれず、新しい思い付きを大事にしよう」という精神で、物事を進めています。

結婚したのは8年前。彼と出会うまでは、正直、私の頭の中に「結婚」の二文字はまったくありませんでした。なぜなら、自分の時間はすべて自分のために使いたいと思っていたから。「自分のため」とは、言い換えると、歌のためです。不思議ですね、そんな私が結婚したのですから。(笑)