「要らないよ。人の噛んで捨てたガムなんか」

酒井 今、すんみさんの世代は?

すんみ 私の世代は、子どもを産む女性自体が減っています。そもそも結婚しない人が多くて、「非婚」という言葉が流行っているくらいです。

酒井 結婚したくてもできない人が多いのでしょうか? それとも、結婚がつらそうだからしたくない?

『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ著 斎藤真理子・訳 筑摩書房

すんみ 後者ですね。やはり家父長制が根強い社会では、「結婚すれば女性は家の犠牲になるだけ」と考えるのだと思います。小説でも、結婚後、子育てをひとりで担うことになり、仕事を辞めざるをえない状況が書かれています。

スー 女性の労働力率が子育て世代になると下がり、「M字カーブ」を描くのは、日本の状況とまったく同じです。それだから、子どもを産みたくなくなっちゃう。自分の社会人としての人生が終わってしまうもの。

酒井 私が書いた『負け犬の遠吠え』が韓国で翻訳されたとき、「負け犬」が「老処女(ノチョニョ)」と訳されていました(笑)。当時、韓国では結婚前に処女でなくなる人は珍しいと聞きましたが、今はどうでしょう?

すんみ 純潔を求める時代は終わったと思うんですけれど……。でも、恋人には求めなくても、結婚相手には求めるという男性はまだいます。

酒井 小説のなかでも、恋人がいた主人公のことを、別の男性が「要らないよ。人の噛んで捨てたガムなんか」と言うシーンがありましたよね。そういう感覚はまだあるんですね。

すんみ ええ。韓国では、日本の女性も男性より地位がとても低いんじゃないかと思われているところがあります。「男性の一歩後ろに下がる」とか「不当なことをされても不満を口にしない」とか。それはどうですか?

酒井 そうしたところもまだあると思いますよ。男より“下”じゃないとモテないとか。高学歴高収入の女性も、「自分より年収もキャリアも高い男性がいい」と言ったり。いまだにそういう感覚なの? と思います。

すんみ なるほど。

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すんみさんは『82年生まれ、キム・ジヨン』のこのエピソードに注目した!

国民学校(小学校)に入学したキム・ジヨンは、多くの女の子が経験する「隣の席の男子のいたずら」を受ける。それが我慢できず、姉や母に泣いて訴えるも、「男の子は子どもっぽいからしょうがない」と言われてしまう。ある日、先生は隣の席の子を叱りつけた後、キム・ジヨンに「わからないかなあ? あいつはジヨンが好きなんだよ」「男の子はもともと、好きな女の子ほど意地悪したりするんだよ。この機会に仲良くなれたらいいんだけど」と言う。好きだったらもっと優しく親切にするものじゃないのか? とキム・ジヨンは混乱する。

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