自由に発言し、自由に怒ろうよ
すんみ 韓国でも、ネットとフェミニズムは強く結びついています。80年代のフェミニズム運動は労働運動と連動していて、どこか怖い人がやるイメージもあったそうです。それがいったん下火になり、90年代はフェミニストがネットでコミュニティを作って、普段は言えないことを書いたり読んだりしていました。そして今、江南駅の事件をきっかけに、一般の人がツイッターで「#私はたまたま生き残った」というハッシュタグをつけて声を上げ、フェミニズムが再び広がるようになったんです。
スー 女性なら誰でも、「自分が犯人に刺されていてもおかしくなかった」ということを訴えたんですね。じゃあ、韓国で普通の若い人たちの間でフェミニズムが盛り上がってきたのは、本当に最近のことなんだ。
すんみ そうです。今のフェミニストは「ヤングフェミ」と呼ばれ、自由に発言し、自由に怒ろうよ、という明るいイメージがあります。
スー それはいいですね!
酒井 日本でのフェミニズムの芽生えは、明治の末期に『青鞜』が創刊された頃だったわけですが、そのときの流れも欧米の婦人運動から来ていますし、敗戦後に女性が選挙権を持つようになったのもアメリカの力。その後のウーマン・リブもアメリカから来ているわけで、日本は外国の動きを利用してきたと言えます。今回も韓国からフェミニズムが移植されてきて、動きが変わる可能性は大いにありますよね。
スー 今、韓国はフェミニズム運動だけでなく、若者文化もすごく勢いがあって魅力的ですよね。
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酒井順子さんは『82年生まれ、キム・ジヨン』のこのエピソードに注目した!
予備校からの帰り、知らない男子生徒に声をかけられたキム・ジヨン。自宅近くのバス停に到着すると、男子生徒もついてくる。脅えていると、「あんた、俺にプリント渡すときも、いつもニコニコしてんじゃん。何で痴漢扱いするんだ?」と立ちはだかってくる。バスに同乗していた女性が機転を利かせ追い払ってくれるが、事情を聞いた父親は「何で誰とでも口をきくんだ。何でスカートがそんなに短いんだ」とキム・ジヨンを叱った。しかし、助けてくれた女性は、「あなたが悪いんじゃない」「でもね、世の中にはいい男の人の方が多いのよ」と言う。
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〈後編につづく〉
酒井順子
エッセイスト
1966年東京都生まれ。高校時代より雑誌にエッセイを寄稿。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆に専念する。 2003年『負け犬の遠吠え』で講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。『処女の道程』『鉄道無常 内田百閒と宮脇俊三を読む』『ガラスの50代』『うまれることば、しぬことば』『女人京都』など著書多数。
すんみ
翻訳家
1986年、韓国・釜山生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。訳書に『あまりにも真昼の恋愛』『北朝鮮 おどろきの大転換』『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』など
ジェーン・スー
コラムニスト・作詞家
1973年東京都生まれ。作詞家としての活動に加え、TBSラジオ『ジェーン・スー 相談は踊る』などでパーソナリティーとして活躍中。2015年、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で講談社エッセイ賞を受賞。近著に『生きるとか死ぬとか父親とか』『これでもいいのだ』『きれいになりたい気がしてきた』『おつかれ、今日の私。』『OVER THE SUN 公式互助会本』『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』など。